Blog いんぱるぱぶれ

藪

藪 

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藪の中。家の庭が藪だった。これは私の心理状態そのものだった。ほとんど見ないようにして、生活していたけれど、これをいつか、もとの状態へ戻さなければいけない。これは私の責任だと思っていた。けれど、できなかった。藪は介護期間と、そのあと虚脱状態になった時期と重なっている。

藪
藪の中

いや、よく思い出してみよう。私はその前から、家の庭が嫌いだったのだ。生前、祖母から、なぜ庭仕事をしないのかと詰問されたが、強い陰の気を感じて、気分が悪くなるほどだったので、そんなところに、誰が居たいものかと反論したが、祖母には通じないだろうと、解かっていた。なぜなら、庭は祖母そのもの。私が心の中で鬱陶しいと思っていた祖母、もっと言えば、先祖たちそのものだったから。

陰の気とは、水の気だ。先祖たちは水にちなんだ苗字に誇りを持ち、曽祖父は子供たちの命名にも水にちなんだ漢字を当てていた。水の気は「情緒」に深くかかわっている。祖母の家系は文学、絵画といったマスメディア、文系の血筋で、それらが深く感情に根差しているのは周知のところ。私はこの水浸しの人々に囲まれて、生きていた。事実、庭に自生しているのは竹と羊歯ばかり、土の質がとても湿っているのだ。もう少しドライにならないものか? 私は反旗を翻した。

曽祖父が好きだったという理由から、庭には白梅と侘助が植わっていたが、毎年カイガラムシが発生する病気持ちの木々だったので、全て伐採した。風通しはよくなったけど、もともと好きじゃない夫が身なりを整えたからと言って、惚れ直したわ!なんて簡単に行くはずもなく、そのあとも庭は、放置の一途をたどった。

祖母と母を介護していた間に、庭は徐々に藪と化して行った。母の部屋が庭に面していたこともあり、私は庭と母の部屋を青髭侯の開かずの間にしていた。しかし見てはいけないものほど、気になるもの。ついに観念して、とある早朝、私は藪の中へ入って行った。竹が林立し、下生えの植物は2メートルになり、朝だというのに暗いのである。いっそ破れ提灯でもぶら下げて、これはアートだ、ということにしようかと思った。これを元に戻すには、私は木こりにならなければならないと、覚悟した。その矢先、膝を怪我して万事休す。自分でつぐなうことは諦めて、植木屋さんに電話した。

植木屋さんは三日間、奮闘した。そうして庭の面手に土が顔を出した。母の部屋の扉を開けた。そこは青髭侯の開かずの間なんかじゃなかった。目にやさしいベージュのトーンで統一した母の部屋だ。今や、不安や恐怖の藪は消え去っていた。

心の藪を祓ったので、私は活動を開始した。アジサイを植え、金木犀と南天を植えた。早朝、シュウメイギクを植えようとしたとき、竹の根につまづいて、おでこを塀に強打した。遠隔治療を受ける日だったので、南先生におでこをぶつけた由、申し出た。そういえば中学生の時、体育館でバスケットボールの試合中に、やはり同じようなぶつけ方をしていた。これってもしかして、過去の修復作用かしら? 体育館強打の時は見事にタンコブになったけれど、今回は衝撃のわりに腫れていない。南先生に申し出たの、大げさだったかしらと思った。南先生に、庭を再生中だと説明したところ、おでこをぶつけたことは、私が先祖の祓いも担っているからだと、伺った。

確かに、私の家は先祖の気に満ちている。私がおでこをぶつけた塀は、Tさんのお宅のもので、庭の背面をなしている。Tさんは母と同級生だったし、右隣りは叔父の、左隣もかつては親族の住まいで、私が今ここに住んでいるのも、こうした先人たちの暮らしがあったからだ。私が心地よく住まいながら、改革していくことがご先祖供養にもなるのですよと、南先生は話してくださった。

私は湿った庭の土地が嫌でたまらなかった。けれども湿っている土地で出来ることを考えた。アジサイは湿った土地でも花を咲かせる。私はアジサイが好きだったので、青と白のアジサイを植えた。春水先生からアジサイの祓いについて、伺ってから、日に日に色を変えていくあの丸い花に、私はいっそう興味を持つようになっていた。アジサイには神秘的な力が備わっていたのだ。スピリットたちは確かに、先祖と私を見守っていた。

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