死は死ではない2
死は死ではない2
母の死 ・カラス
生き物は自然に息絶えるとき、食べなくなることを、私は家猫の死を見て知っていた。動物には自意識がない分、神様の時間と直結している。だから、時がきたときは素直に体内の寿命時計に従って、死を迎える。
母も最期は、日に日に食べなくなって行った。もう、近いのかな。ああ、私は一人で母の死を看取らなければならない。怖かった。怖いのをこらえていたら熱が出た。

それでも私はいつもどおり、歩いて勤めに出かけた。どこか後髪引かれながら。角を曲がって二本目にさしかかった時だった。一羽のカラスが目の前に舞い降りた。カラスや鳩がいるのは、日常茶飯だったけれど、こんな至近距離に来ることはない。カラスは私を導くように、前をヒョコヒョコと歩き続ける。フロックコートの教頭先生みたいに。 頭の中で声がする。「来たんだ。その時が。いや、そうじゃない。そうじゃない!」認めたくなかった。けれどもその日の夕方、母は逝った。カラスは知らせに来ていたのだ。
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