魔性と無垢
魔性と無垢
◆ 月のファンタジー ◆
満月を見ていたら、一人の女が現れた。薄雲けむるヴェールの向こうから、こちらの様子を窺っている。
彼女の正体を見てやろう。私は雲のヴェールが晴れるのを待った。こちらの想いを知ってか知らずか、雲は渦巻き、月暈に赤い影。それは女の長い髪、月の周りで燃え上がる長い長い時の流れ。
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月の光が青いですって? 中心は燃える薔薇色をしているのよ。夜の闇に身を浸して、あたしは恋のパッション、隠してる。
赤い流れが速度を増せば、夜のしじまが深くなる。
静寂。
月暈に火と燃える赤い髪。その恋情が飛び火して、こちらも内心熱くなる。これぞパッション、情熱と受難。
すると突然、雲が晴れた。
空に現る白い月。ぽっかり浮かぶ丸鏡。何をか映す白金のおもて。今や赤毛は消え去って、見えるは白い純潔の乙女。目を閉じて果てなき思索の憂い顔。
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5月と9月の満月には、あの世とこの世がつながる。ウエサク祭が祭られて、弥勒が欠けた椀から甘露を滴らせる。その一滴が21万に分かれて求道者たちの椀に注がれる。そのありがたい夜、満月を凝視すること2時間。魔性の女が、無垢の乙女に変貌した。汗出して月を見ていた。どこにこんな集中力があったのか、自分でも驚いた。
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