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涙の谷 その1

涙の谷

涙の谷

涙の谷 涙の谷 その1

「涙の谷」という言葉を教えてくれたのは、祖母でした。最初は単に悲しいことを指すのだと思っていました。私が思春期の頃、ちょうどになった頃だったか、祖母は涙の谷について具体的に話したのを覚えています。それは一般的な意味や聖書(詩編)の意味、ましてや中東戦争からも遠く、私に一つの大きなイメージの種を蒔いたのでした。

乳房の間を谷間と言いますが、女性が誰かのために涙を流すとき、その涙が頬を伝い、顎を流れ、首を伝い、ついに胸の谷間に辿りつく。涙の谷とは、そういう意味なのよと、祖母は私に言いました。乳房は生まれて間もない命を育みます。そこから慈悲についてのイメージがはっきりしました。それまでは聖書や仏教の話で慈悲について聞いても、漠然としか考えられなかったのですが。

涙の谷
Valley of Tears

鬱になった私は、まだ少女で、寄る辺ない気持ちを抱えていました。それを見て、祖母は直観的に、私が家庭的な保護を求めているのだと、内心危機を覚えていたようです。私は成長過程で両親と関わりがなく、家庭的な環境でも育っていませんでした。そして母の乳房を吸うこともなく過ごした乳児期を、祖母は気にしていたようなのです。子供向けのテレビ番組で「おっぱい飲んでねんねして」という歌がありましたが、自分はおっぱいを飲んだ覚えがないなぁと、子供心に思っていましたが、それ以上深く考えることはありませんでした。

乳房を吸わなかったせいか、その後の私は、おしゃぶりを吐き出し、ストローは使わず、タバコも吸わない人生です。タバコを吸う人は、お母さんのお腹にいる時から指をしゃぶり、乳房を吸い、おしゃぶりを吸い、長じてタバコに行きつくという話を聞いて、吸うことの根本にあるのは、乳房で養われること、そしてその満足をもう一度、なんだなぁ。禁煙したい人はこういう根本的なところから考えるべきでしょう。

さて、私がどうして母の乳房を吸わなかったかと言えば、帝王切開でこの世に出たので、母は手術の流血からすっかり参ってしまって、お乳が出なかったというわけでした。140センチそこそこの小柄な母に宿った私は、4キロ近いジャンボベビーでした。産院の先生は宿った命は生まれますと、おっしゃっていたそうですが、やはり自然分娩から急遽、帝王切開に切り替えることになったのでした。もちろん、先生はそれを見越して、帝王切開の名手だった息子さん先生がいる休みの日を出産日にと考えて、私は日曜日に生まれました。日曜日生まれはいいのよと、教えてくれた人がいて、どうしてかと思ったら、マザーグースにそんな風に歌われていたのを知りました。

Monday’s child is fair of face,
Tuesday’s child is full of grace;
Wednesday’s child is full of woe,
Thursday’s child has far to go;
Friday’s child is loving and giving,
Saturday’s child works hard for its living;
But the child that is born on the Sabbath day
Is bonny and blithe, and good and gay.
月曜日生まれの子は綺麗な顔
火曜日生まれの子は品格があって
水曜日生まれの子は苦労が多く
木曜日生まれの子は遠くまで行き
金曜日生まれの子は慈悲深く
土曜日生まれの子は働いて暮らしを立てなきゃならない
けれども神様がお休みの日に生まれた子は
可愛くて明るくて気立てが良くて朗らかだ

案外当たってるって、自分の生まれ曜日を知って驚く人が多い。母が月曜日で、祖母と父が水曜日。日曜日って具体性がないんだなぁと思う。さて、あなたは・・・?

思春期の私が寄る辺ない気持ちを抱え、鬱状態だったことと、母乳で育っていない(母との根本的な交流がなかった)ことに、関連があるとは思えなかったのですが、鬱の原因が生まれて間もなく絶望したことで、その一因を考えると、乳房から栄養を取って満足する、母に抱かれて安心するという乳児期の体験をはぶいたことが、影響しなかったとは言えないと、謙虚に考えるようになりました。母と仲のいい親子ではなかったし、絶望の原因は家族嫌いだったことを思い出せば、なおさらです。

絵を描くことを再開してみて、自分の来し方、得意画題を振り返れば、子供の頃から得意だったのは美女を描くことで、長い首と美しい胸元も当然セットになっていました。現に本日も美女と乳房を描いていますが、男性の絵描きさんが言うように、乳房やヒップを描く時、まるで疑似セックスをしているようだという感覚は、まるでありません。自分は女性ですし、乳房というものが人体のパーツでありながら、精神性への回路を開く非常にデリケートな性質を持っていることに気が付いているからです。そう、それは乳房の瞑想です。

つづく→

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コメント

  1. アバター
    • 松本 涼
    • 2020年 6月 27日

    一人の作家がどのように育ってきたのか。それはぼくにとっても大いに興味のあるところで、
    今回の涙の谷間を読めたことはとてもありがたく、勉強になりました。
    乳房の瞑想という表現は初めて読みました。女性の視点だと思いました。

  2. 玉野 モニカ

    どうもどうも♥ ここはちゃんとつづきを、乳房の瞑想について書かなくちゃ。
    男性にも大いに関わりがあるところと、思われますので。
    ではでは・・・

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