嫌悪と和解
ゴキブリにシャワー。これが祖母の卒中の始まりだった。彼女は亡くなるまでに4回卒中の発作を起こしていた。その日、祖母の入浴がいつもより長いので、気になって様子を見に行った。どうしたの?大丈夫? 声をかけると、よろけるように出てきた祖母は、開口一番、口がきけないと言った。背後からもうもうたる湯気が追いかけてきた。何があったのか問いただすと、ぽつりぽつりと、ゴキブリが入ってきたので、熱湯シャワーで追い回していたと言う。最高温度の設定が80度だったが、シャワーがすぐに80度になるはずもなく、ゴキの生命力は強いのが周知の事実。暑い湯気もうもうでヤラレタのは、祖母の方だった。あの時、ゴキブリがでなければ、何て言うのはない。彼女はそういう顛末を辿る人だったのだ。祖母の後ろ姿を思い出しながら想う。ゴキブリ嫌悪は止めようと。なぜなら私は、ゴキと和解した経験があるのだから。
ゴキはエイリアンではない
森の生き物だった昆虫たちは都市生活の中で、時として害虫になってしまったけど、嫌悪を押し出すのは止めにしてみようと、思うようになった。 ゴキは人類より長い年月を生きている。そう、思うようになったのは、クーラーの効いた部屋にゴキが入ってきた時からだ。以来、私はゴキブリをエイリアンではなく、昆虫と思えるようになった。遠く生命の始まりに思いをはせると、岩があって、植物が生えて、昆虫や生き物が生まれて、一番最後に人類が来て。それを思えば、石も植物も、昆虫も動物も、みんな横のつながり、地球の仲間。十字架の横木、縦木は天とのつながり。そう思い起こして、ひと呼吸。きっと違う何かが見えてくるはず。
ソロモンの指輪をはめると動物の言っていることが解かるというけれど、あの時、ブーンと飛んだゴキが「わぁ、涼しい!」と。考えもしなかったことがピンと来て‥‥生き物って感じることは、みな同じだと、実感しました。暑い時、外からクーラーの効いた室内に入ったら、わー!涼しいってなりますもんね。
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