たまご語り
たまご語り
「香具師(やし)はひよこを売っている」これが初めて銀座のグループ展に参加した時に描いた絵のひとつでした。ここから、たまご→ひよこ→香具師→料理人と、展開しました。当時の絵を思い出して描いてみたら、かつての自分がどんなだったか、身につまされるようです。
女性がたまごを持っているのは、エロティシズムへの言及もさることながら、生まれ変わりのイメージもあります。というのは当時、鬱から立ち直ったばかりで、とてもビジュアルな夢を毎日、見ていました。仙骨調整のS先生にも言われて、夢日記をつけるようになっていました。そんな中、水草に抱かれて眠っている大きな卵の夢を見ました。とても美しかったので、夢のたまごを想い浮かべると、癒されました。印象が強すぎて、すぐには絵に描けませんでしたが、いつかこの美しい夢を、描こうと思いました。以後、随所にたまごのイメージが現れるようになったのです。
たまごは料理に使うと、さまざまに形と色を変えるところにも、興味を持っていました。パスカル・アルマーニさんという方のたまご料理の本を愛用しました。フランスにいた時はマッシュルームを使っていたけれど、日本でシイタケに出会って、このレシピを思いつきましたという風に、長らく日本で暮らした経験からレシピが練られているので、どれもわかりやすく作りやすいものでした。それで、ほとんどのレシピを作りました。ロールケーキのスポンジを焼くとき、卵の黄身をひとつ多く入れて、腰のある生地にするとか、レモンバターはお砂糖の分量を充分に使って、しっかり甘いフランス風ですと書いてあったり、プリンを小分け容器に入れず、大きな器で一時間、じっくりオーブンで蒸し焼きにするとか、作り方も味わいも、充実していました。
それに拍車をかけるような出来事もありました。パン菓子職人のご夫妻とご縁をいただき、世の中のパンとお菓子が、いかに偽物であるかの薫陶を受ける機会があったのです。たとえば、たまご液ではなくたまごの粉から作られているプリン、薬品でふわふわにしているスポンジケーキ、注意しながら口にすると、すぐにそれと判るようになりました。こうして以前にもまして、加工品を口にしなくなったのです。
描いてよし、味わってよしのたまご。たまごには、生・半熟・固ゆでなどのように3様相があります。私はいつも中間が好みで、ポーチドエック(半熟)をバターでソテーしたほうれん草の上にのせて、ホワイトソースをかけて焼く。パスカルさんのレシピが大好きでした。
それから番号札を取ったりすると、なぜか1と3の間、2にあたることが多いのです。物事は3で進むことを思えば、2は真ん中です。
パンも焼き菓子も卵も食べなくなって久しいのですが、常にバランスするとは、真ん中を取りながらも、変化を恐れないことかもしれないと、思っています。
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