夢の中で
あの世とこの世の間。日常の中で、異界に通じる戸口と言えば眠りだ。春水先生は一日一回、涅槃に入ることが許される時間だと、言っておられた。ミツバチの羽音から安らぎを得た私だったけれど、それは次に待ち受けていた試練を乗り切るひと呼吸だった。夏から秋にかけて、私は祖母に関する不気味な夢を3回見た。最初の夢の中で、祖母が「アタシ、もう函館に帰れないわね」と、言うのを聞いた。その顔はぬらぬらとした飴色で、油のような液体に漬かっていた。夢と目覚めのはざまで、私は祖母の遺体が医科大学の検体室でホルマリン漬けになっていることを思っていた。日本橋は室町の本籍が自慢だったにもかかわらず、彼女は幼年期を過ごした函館という土地を生涯、愛していた。ハコダテ・・・そこで、私は目を覚ました。
夢は不気味だったけれど、この出来事から私は、人は死んでも死なないんだと想い始めた。もちろん、肉体は消滅するけれど、人は死んでもこの世とつながりを保つし、生きていても、あの世と関わりが確かにある。魂の不滅とはこういうことか?最初は不気味さで、目が曇っているけれど、あの世からのアクセスが増えるにしたがって慣れる。と言った方がいいかもしれない。あの世とこの世は、つながっているのが当たり前で、今まで自分が意識しなかっただけで、それが本当なんだと、頭を切り替える。そしてもっと心が澄んでくれば、春水先生のおっしゃる通り、眠りは涅槃になるのだろう。
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