守護霊たち
介護は「殴る、蹴る」が出たら、終わりだというが、私はかなりの初期段階で、祖母を殴り、蹴った。祖母は曽祖父に蹴り飛ばされて諦めて、嫁に行った人だったから、最終手段に出ないと、へこまないのを知っていたのだ。祖母を殴る蹴る。こんな日が来ようとは、などど抒情に浸っている場合ではなかった。私はこぶしで殴り、足で蹴りつけた。祖母はうずくまり「お母さん、お母さん」と、言った。人間、最後に頼るは、やはり母親なのだ。自分は違うぞと、祖母の傍で、おろおろして半べそをかいている母を見ながら、そう思った。そして、気が付いたことがあった。殴る蹴るのさなか、いっそ死んでしまえばいいとばかりに力を込めて、殴りつけ、蹴りつけたはずだったのに、スカッスカッと、力が抜けることに。私は肩で息をしながら、うずくまる祖母と、半べその母を見ていた。この甘ったれの女ども、どうしてくれようと怒りに燃えて。そう、私はこの状況を理解するのに、少し時間がかかってしまった。甘ったれているは、彼女たちではなかった。この私の方が数倍も甘えている人間だった。そして自分が介護殺人に至らなかったのは、スカッスカッと、力をそいでいた守護霊たちの働きがあったからだ。天国へかけた電話は通じていたのだった。
先祖たちこそ、守護霊だと教えてくださったのは、春水先生でした。女性には男性の、男性には女性の守護霊がつくそうです。なぜなら人はみんな、異性のことは気になるから。モニカには絵描きだった大伯父がついていると、春水先生に教えて頂きました。大伯父は生前から、絵が好きだった私を気にかけていた。祖母が亡くなって以来、私は最強の晴れ女になったので、祖母も守護霊団の仲間入りをしたのだと思う。
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