ヒエラルキー
ゴキ・シャワーで卒中を起こした祖母が、その後うわごとに言い続けたことがあった。雛壇が見える。その一番上に両親がいて、その下にみんな連なっていると。彼女には4人の兄があったが、みんな、すでにあの世へ行ってしまっていた。自分だけが一人、この世にいることが今や強迫観念のようになった。そして彼女の中には、家族のヒエラルキーがどっしり座っていた。雛壇はその象徴だ。彼女は家長制度厳しい封建社会の生まれだ。彼女がぶち壊そうとしたのは、これだったのか? だから両親から与えられた安定した結婚生活も高価な嫁入り道具も、全ておしげなく捨てた。嫌いな男の子供である娘も、捨てようとした。祖父が離婚届けに押印するまで家出して、逃避行の末に住み込みの家政婦にまでなったのに、電車に乗って逃げる車中で、乗客の中から「おかあさん!」と声がしたのを聞いた途端、涙が溢れて止まらなくり「これは駄目だ」となった。つまり子供は捨てられなかったのだ。けれども、卒中の錯乱の中、何度も母を階段から突き落とそうとした。祖母の中には、なんと未解決な混乱が渦巻いていたことか。自分と向き合うことができないまま、年を取ると、こういうことになるんだと、私は理解するに至った。
Thank you for reading this post, don't forget to subscribe!さらに考えてみよう。自分の感情にひっからまって、もんどりうって倒れた。それが祖母の病巣の権化だったと。そもそも卒中になったのは僧帽弁狭窄症、つまりハート(心臓)を傷めたからだった。あのしっかりしていた女性の中に、とぐろをまいていたのは、自分と向き合わなかったがために、肥大し続けた黒い大蛇だった。だからこそ、祖母はすべてを捨てたのだ。両親が決めた安定した結婚生活も、自分が育った上流社会も。すべてを捨てれば、大蛇も退治できると思ったのが、祖母のいい加減なところだろう。自分と向き合わずに、状況だけを変えても、それはただの逃げだ。人ごとなので私は冷酷に批判できるけれど、祖母の果たせなかった大蛇退治を、私はきっと果たさなければならないのだ。これが先祖たちからの、あの世からの、私という子孫に託されたメッセージなのだ。
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