桜・夢想
桜・夢想
満開の桜の下に佇んで、微風に震える花びらを眺める。そう、あれは春の宵、辺りがとても明るいので、不思議に思って明り取りの窓を覗いたら、満開の桜だった。花灯りがこんなに明るいとは知らなかったので、そのまま階段に腰を下ろして、桜灯りにしばし浸った。
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それから桜の夢を見た。空を透かして咲く桜。さながら大合唱のような満開の花から花へ、私は蝶のように飛び回る。花々の囁き。訪なう小鳥たち、世界は桜の花に抱かれている。すべては一致している。私は満開の桜を抱きしめていた。
花芯のすっかり開いた花を見ていたら、なぜだか急に怖くなった少女のころを思い出す。横たわる裸身の恋人に、羊たちが憩う緑の地平線を見た詩人の霊感と同じく、満開の花は、ほの暗く温かい性の神秘への暗示。
美しい花に秘められた凄みと恐怖。恐怖の原因は未知だから、それは次へのステップだ。未知の恐怖に打ち勝てば、扉がひとつ目の前で開く。そうして自然の営みに隠れている摂理について、ひとつ理解が進むのだ。
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桜の花は、散り際の潔さが愛でられているけれど、私は桜灯りが教えてくれたことに、思いをはせる。それは全き自然、明日に向かって元気に生きる力、この世のすべてのものに与えられている正常な波動。たとえ絶望した時にだって、愛を思い出せるように。
もう葉桜になったけれど、桜の妖精たちは、自然の営みが滞りなく進むよう、今も働いている。
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